リーダーに求められる使命とは何か?(鳥谷陽一)

執筆:鳥谷陽一

2013年9月に一度引退を表明した、アニメ映画の巨匠である宮崎駿氏は、その引退会見で次のように語った。

「この世は生きるに値するということを子供達に伝えたいという思いを、傍らに持ってこの仕事をやってきた。それは今も昔も変わらない」

私はここに、宮崎氏が大きな成功を収めた理由があると感じた。この明確な目的意識があったからこそ、宮崎作品の大ヒットが実現したのではないだろうか。
もちろん、宮崎氏のなかにも「個人的な欲求」が無かったとは考え難い。具体的には、
「好きなアニメで生計が立てられたらうれしい」
「好きなアニメで一発当てて金持ちになりたい」
などの気持ちも少しはあったであろう。しかしそれよりも強い思い、それが「子供達に何としてでもこのメッセージ(この世は生きるに値する、諦めずに飛び込んでいけ)を届けたい」というものだったのではなかろうか。力強い宮崎氏の引退会見の中の言葉にそれを感じた。

「思い」と言えば、多くの企業が実施するキャリア研修でも、「あなたがなりたい姿は何ですか」「将来やりたい仕事は何ですか」という思いを描く演習を行う。これ自体を悪く言う気はない。遠くを見て今を頑張ることは、キャリア開発上有効なことでもある。
しかし実際のところ、キャリア研修で導き出される思いの多くは、「将来はマーケティング部門の専門家になりたい」とか、「人事領域で役員になりたい」等の、個人的な願望にのみ焦点をあてた表現のものがほとんどである。これでは早晩力尽きてしまうことは明らかである。
上記の宮崎駿氏の思いとの違いは何であろうか。それは「他者への貢献」という視点が欠けているという点である。他者への貢献がないキャリアビジョンは、誰もその実現に協力したいと思わない、つまり共感が得られないのである。その思いに共感しなければ協力者も集まらず、協力者なしでは、夢は現実になる可能性は極めて低くなる。
宮崎氏の例で考えれば、「俺はアニメをヒットさせて大金持ちになりたいから、手伝ってほしい」と誘われるようなものである。それに感銘し、「わかりました、是非やりましょう」と応える人がいるとは想像し難い。

リーダーとして部下とのコミュニケーションはどうなっているか、ご自身の状況を考えてみていただきたい。宮崎駿氏のような、「私もその夢の実現のお手伝いがしたい、それに1枚噛みたい」と思ってもらえるような「高い志にもとづくミッション」を示すことができているだろうか。
「儲ければ良い」「成果が出せればそれで良い」「その際は賞与を多くするから、つべこべ言わず、頑張れ」このようなコミュニケーションに終始していないだろうか。いくら表面上だけ「傾聴」や「質問」を実践しても、この芯の部分が無ければ、リーダーシップは発揮できない。

 真のリーダーとは、自身が受け持つ領域で、部下など関与者の意欲を最大にすることができる「使命」を打ち出せる人のことを言う。上記の宮崎氏の使命は、まさに関係者を鼓舞できる「価値ある使命」ではないだろうか。
もちろん、そこには自分自身が誰よりもコミットしている必要がある。強くコミットしているからこそ、責任感が醸成され、自分を強く鼓舞し、他人も鼓舞し、ゴールまで諦めず進ことができるのである。
リーダーが持つべきものは、「個人的にこうなりたい」というキャリアのビジョンではない。任された部門や機能の価値を最大にする「チームの使命」なのである。重要なのは「他者貢献」であり、そこに自身のキャリアビジョンを重ねることができたとき、その人は生き生きとした、力強い真のリーダーになることが出来るのである。